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「契約書の丸投げ」「経営陣の理解」…“法務の課題あるある”を解決するには? 社内の法務リテラシー向上のためにできること 2023.12.01

2023年9月13日(水)に第一法規株式会社、FRAIM株式会社の共催で「社内における法務リテラシー醸成の方法〜リーガルシンキングを育むには〜」と題したセミナーを開催しました。弁護士法人色川法律事務所の鳥山半六先生を講師にお迎えし、企業法務に携わる方々に向けて、先生の実体験を交えた社内における法務リテラシー醸成の具体的な方法や、心構え等の講義を行いました。
この記事では、イベントの内容をお伝えします。

【講師】
弁護士・弁理士 鳥山 半六
弁護士法人色川法律事務所 東京事務所担当パートナー(弁護士・弁理士)

訴訟や企業法務を中心に、社外役員として企業経営の現場にも日常的に関与。京都大学法科大学院非常勤講師(法曹倫理担当)・大阪弁護士会副会長などを歴任。大阪商工会議所その他で対話型の契約セミナーやコンプライアンスセミナーに取り組む。Best Lawyers Japan 2023(Labor and Employment Law)の一人。
主な著作:「いちからわかる・使える『契約』Q&A~今さら聞けない現場のギモンを解決~」(第一法規)/「いちからわかる『コンプライアンス』Q&A~今さら聞けない社長のギモンを解決~」(同)/コンプライアンス啓発活動推進マニュアル「社内の契約リテラシーを高めるには?~『リーガルシンキング』の育て方」(同)/「フレーフレー弁護士!」(「自由と正義」2020年12月)/「Q&A兼務役員の法務と実務-企業集団における人材活用」(田辺総合法律事務所・弁護士法人色川法律事務所編・商事法務2020年1月)ほか

法務担当者共通の悩み、「契約書の丸投げ」と「法務の重要性への経営陣の認識」

法務のお悩みはいろいろとあるかと思いますが、今日は次の2つに絞ってお話しします。
私自身の経験をもとに、細かな知識より「モノの考え方」を中心に、関西人らしく「ホンネ」でお伝えできればと思います。

法務の悩み①:契約書を 「丸投げ」されてしまう…

1つ目、「契約書の 『丸投げ』」問題です。まず、法務・事業部のそれぞれの内言(心の声)に耳に傾けてみましょう。

さて、法務として、双方の内言のズレを押さたうえでいかに対応していくべきでしょうか? 

私見では、「もっと自分の頭で考えて!」と批判するより、事業部の立場に立って考えることです。事業部というのは、客先やライバルもいるなかで「実績を上げてナンボ」という厳しい世界で戦っています。そんな忙しい事業部の身になって、事業部が見ているものを一緒に見ながら考えるのです。

事業部の「契約観」を知ることが第一歩

そのためには、まず、「事業部が『契約』というものをどう捉えているのか」を理解することです。一般的な傾向として、事業部には次のような契約観があるように思います。

1. 「現実」と「契約」を全く別の問題と考える傾向がある

事業部は、「今ある現実」をベースに考えがちです。そのため、トラブル時には、トラブルの原因や交渉経緯等については詳細に資料を作ってくれるのですが、「契約ではどうなっているのか」という「規範」の視点が欠ける傾向があります。

2.  「契約書の雛型を使えばOK」と思っている場合がある

契約というのは、法律を変更するもの、つまり、民商法等の任意規定を自社に有利に上書きするものですが、雛型を見て「〇〇契約とはこういうものだ」と鵜呑みにされることがあります。
これは「どこかに客観的に正しい真理がある」という理系的なモノの見方かもしれません。実際、雛型を作った人の立場や狙い、自社にとっての有利・不利を考えず「〇〇契約の雛型だから」とそのまま使った結果、自分で自分のクビを締めてしまったケースもあります。

3. 「書類の名前」によって効力に優劣があると考えがち

「『覚書』だけでは契約は成立していない」「『契約書』という表題以外の書類は法的効力が弱い」(または「法的効力がない」)と考えているケースもよくみかけます。これは誤解で、書類の名前に関係なく、法的に強制可能な、つまり権利義務を作る確定的合意があれば、口頭でも契約は成立するのです(民法522条)。契約書は契約の成立要件ではなく、契約の成立と内容を立証するためのエビデンス(証拠)にすぎないのです。
また、「『覚書』だから印紙は不要」「『覚書』だから社内の稟申決裁は不要」というのもよくある誤解です。

これらをまとめると、丸投げ問題の根底には、次のような意識・知識の欠如があるように思います。

「良い契約書」は事業部が作る!「契約」の正しい捉え方とは?

事業部にありがちな「契約」の誤解を踏まえ、あらためて「契約」とは何か?についておさらいしておきましょう。それは、どういう視点で「契約」というものを見るか、その見方・捉え方の如何によって、ビジネスの取り組み方や心構えが全然違ったものになり、ビジネスの明暗が大きくわかれるからです。

まず大事なことは、契約は「目的」ではなく「手段」だということです。
では、「目的」は何か? 「判定者」は誰か? それを表したのが次の図です。

契約に先立つものが「目的」で、これは、「そのビジネスで何を獲りに行くのか」ということです。「目的」を実現するために当事者間のルール(規範)を言葉で見える化し、未来の行動を規律するのが「契約」です。つまり、契約とは、ビジネスのチャンスとリスクをコントロールするための手段です。
ビジネスでは、「何を獲りに行くのか」がすべての出発点ですが、目的を決めるのは事業部です。法務はあくまでそれをサポートする立場で、目的まで決められないのです。同様に、そのビジネスの懸念点、「いざという場面」を知っているのも事業部です。

以上から、「良い契約書」を作るために法務が事業部に確認して欲しいことをまとめてみました。

事業部からの疑問や反論へのコメント

さて、リティゲーション弁護士(訴訟弁護士)は常にそうですが、法務は独善ではダメで、常に相手からの反論を想定し、複眼的・俯瞰的に考えなければなりません。そこで、以上に対する「事業部の反論」を想定してみましょう。

反論①「ゴチャゴチャ言っていたら取引なんかできない。取引とはリスクを取ることだ」

確かに一理ありますが、「とれないリスク」「とってはいけないリスク」もあります。実際、過去には契約によって会社を潰してしまった例もあります。「獲りに行くもの」との比較でリスクの大小を見分けるのが法務の仕事です。もちろん相手への信頼なしには取引は始まりませんが、人間は弱いもので、いざとなると「裏切り」や「背信」もあります。トラブルに備え、いざというとき「使える」、つまり手を打てる契約にするのが法務の職責です。

反論②「訴訟にまでなるのはごく一部。歩留まり(全体に対する割合)を考えると『万一』にまで備えてられない」

確かに最近、訴訟は増えていません。しかし、交渉事はいくらでもあります。交渉の勝ち負けは何で決まるか? それは、最後の最後、「出るとこに出れば勝てる」かどうか、つまり、理(ロジック)と証拠(エビデンス)です。だから、訴訟にせず交渉で勝つためにこそ、良い契約書(ベスト・エビデンス)を作っておく必要があるのです。

反論③「そんなの常識!いちいち書かなくても…」

確かに「今、この」担当者間ではわかっているでしょう。でも、契約で実際に揉めるのは、担当者が異動や退職した後です。「今、この」担当者間では常識でも、時間が経てば、暗黙裡に握っていた(合意していた)ことは雲散霧消します。だから、誰が見ても契約時のことがわかるような契約書を作っておく必要があるのです。

真に「使える法務」は「業法同行」

さて、これまで見てきたところから、あらためて、真に「使える法務」とはどういうものか、考えてみましょう。 

これは剣道の格言になぞらえた私の造語ですが、二人三脚で常に事業部と共にある「業法同行(ぎょうほうどうぎょう)」です。事業部と法務が各々の役割を果たし、共に経営に貢献する、つまり、会社が無用なリスクを抱えることなく千に三つと言われる貴重なチャンスをモノにできるよう、それぞれの強みを磨き、二人三脚で補い合い助け合うことで自ずと道が開けてくるのではないでしょうか。
「あれを獲りに行くんだ」という事業部の「目的」を明確にさせ、尊重しつつも、「前のめり」になりがちな事業部との率直なやり取り(対話と説明)を通じて「いざというときに戦える契約書」を作っていくのです。そのために、時に事業部と「戦う」ことも必要です。社内の力関係に押し切られ「言いなり」になっているようでは、経営に貢献する法務とはいえません。

なお、法律も契約も、権利・義務は言葉でできています。言葉の使い方次第で、「確定的合意」として相手に強制できることもあれば、単なる「曖昧なお約束」に終わってしまうこともあります。「言葉は思考、思考は言葉」です。言葉がいい加減だと、思考も、そして当然、行動もいい加減になります。だから、言葉にもっともっと気を使ってもらいたいと思います。語感も含め、言葉に対する敬虔さと鋭敏な感覚(コダワリ)こそ、契約リテラシーの基本です。

課題と対策が明確になる“デブリーフィング”のススメ

業法同行で社内の法務リテラシーを高めるための方策として、私は「デブリーフィング」をおすすめしています。

「神は細部に宿る」といいますが、デブリーフィングとは「貴重な現場体験をした人(典型例は宇宙飛行士)から、「その時、何を思ったの?」「どう感じたの?」と根掘り葉掘り、詳細を洗いざらい聴き取ることです。
法務も事業部もAIではなく人間ですから、この聴き取りは「知情意」という「人の精神作用」(心)を意識しましょう。これは、弁護士と依頼者の関係に似ています。

「知情意」とは

  • 知(知識・情報)…いきなり契約書(文面や文言)を見るのではなく、ビジネスを見る。もっというと、ビジネスの成否は「人」(責任者の覚悟)次第ですから、責任者と率直に対話(やりとり)し、「〇〇さん、ホンマのとこ、どうなんですか?」と、真の狙いや心配事、ホンネを聴き取ることです。
  • 情(感情)…「何があってもあなたの味方」が基本ですが、「ダメなものはダメ!」という倫理観も必要です。親身さと頼もしさでラポール(信頼関係)を形成するのです。
  • 意(意思)…「あれを獲りに行くんだ」という目的地を明確にしたうえで、「相手はたぶん、こう言ってくるでしょう」「そのときはこうしましょう!」と作戦を伝授する。作戦は、事業部の話を聞いていれば自ずと見えてくるはずです。事業部の持っている答えを対話によって引き出し、経験を基に、現場で「使える」智慧を提案していくのです。

これらを念頭に置きつつ、まずは事業部に「半径3m」のごく身近なトラブル、ヒヤリ・ハッと、日頃気になっていることを書き出してもらい、それをもとに自由に意見を出し合ってください。大事なことは「わかった!」という気づきです。
そのためには、できれば対話の触媒として訴訟弁護士も入ってもらうと良いでしょう。訴訟弁護士の特質は、相手の立場や裁判官の立場でモノを見る複眼的思考と、修羅場経験です。トラブルや訴訟の現場での実体験から、「えっ、いざとなったらそんなことを言ってくるのか!」「そんなものも証拠になるのか!」という、様々な実例を紹介し、対話を引き出してもらうのです。これにより、よくある相手方の言い分や裁判官のモノの考え方が見えて、課題や対策が明確になります。
そのためには、モノの本に書いてあるような抽象論ではなく、身近な実際の具体例をもとに自由に話し合うことです。失敗は、隠したり恥ずかしがるものではなく、今後に活かすものです。率直に話すことで、何がわかっていなくて、何がわかっているのかをお互いに理解できます。

このようにしてバズセッション(「バズ」とはハチがブンブン飛ぶこと)を積み重ねることで、「似たような話が前にもあったな…」「あのとき相手はこうだったな…」という「引き出し」が増え、「直観力」を養うことにつながります。それが事業部の現場力を高めるのです。

法務の悩み②:経営陣が法務の意義を理解してくれない…

次に、2つ目の法務の課題「経営陣が法務の意義を理解してくれない…」についてお話しします。

経営陣に法務の意義を理解してもらい、法務のプレゼンスを高めるには、社長を味方に付けることです。例えば、社長から「これ、法務の意見聞いたんか?」「(法務の)〇〇君、ちょっと来て!」と言われることです。
これらを実現するためには、次のことが必要になります。

1. とにかく社長が法務に求めていることを知り、それに応えること

社長が聞きたいのは、「やめときなはれ」ではなく、「どうしたらできるか」です。単なる知識(情報)より、どうしたらできるか、その具体的な智慧を出すのが法務の仕事です。

2. 「法務の言うとおりだったな」という実績を作る

絶対にダメなことをOKするようではいけませんが、世の中、絶対にダメなものなんてそう多くはありません。グレーの領域をいかに白に近づけるか、それを現場と経営陣が一緒になって考え、創意工夫し、結果を出していくのが経営です。そして、結果が出れば社長は味方になってくれます。

3. 「他山の石」を活用する

経営を揺るがす具体例を基に、社長に「怖いな…」「ウチでもありそうだな」と思ってもらうことです。最近の過大請求問題をはじめ「法務機能不全」に学ぶべき失敗例はいくらでもあります。自社の失敗ですら活かしきることは難しいものですが、他社の失敗の痛みを実感し、自社に応用することができれば、会社の法務力は大きく伸びるでしょう。
失敗の大半は「視れども見えず」。然るべき法務リテラシーを備えた法務担当者がいれば防げたはずです。経産省の令和1年11月29日付けの令和報告書でも「経営に貢献できる法務人材」が注目されています。今こそ法務の方々に頑張っていただきたいところです。

4. 将を射んと欲すれば馬を射よ

今、「社外役員」が花盛りです。社長の信頼する社外の人から法務リテラシーの重要性を進言してもらうのも良い方法です。

法務こそ頼れる「経営参謀」たるべし

私は、経営問題の大半は実は「契約問題」だと考えています。近年では、半導体不足や人手不足、原価高騰など、経営を圧迫する様々な事象は常に起きるわけですが、こういったリスク対応も相当部分は契約でカバーできるのではないでしょうか。
法務とは、そういった一見不可避ともみえるリスクも想定しながら、ビジネスチャンスを活かし、「いざというときに戦える」契約で経営を支援する「経営参謀」です。

最後、「法務こそ頼れる『経営参謀』たるべし」という言葉で締めたいと思います。本日お伝えしたことが皆さんの参考になれば幸いです。

<頼れる「経営参謀」の5つのポイントまとめ>

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